アロダポスクス(学名:Allodaposuchus)は、後期白亜紀のヨーロッパに生息した、正鰐類に属するワニ形上目新鰐類の絶滅した属。他のワニ形類との間での類縁関係は諸説あり、ワニ目の外部でハイラエオチャンプサと並ぶ正鰐類の基盤的位置に置くもの、ハイラエオチャンプサよりも派生的な位置に置くもの、ワニ目の内部に置くものがある。
特徴
他の白亜紀のワニ形類の多くと同様に、アロダポスクスは現生のワニと比較して小型であった。本属について既知の範囲内で最大の標本は全長約3メートルに達する。形態は種間で異なるが、一般にアロダポスクスの頭蓋骨は短く平坦でかつ丸みを帯びる。Allodaposuchus precedensの頭蓋骨は吻部が短く、その長さは頭蓋天井と同程度である。A. subjuniperusは吻部が中程度に伸びてり、頭蓋天井よりも長い。アロダポスクスの種を他のワニ形類から区別する主な特徴としてはcranioquadrate passageと呼称される頭蓋骨の背側に走る溝の角度が挙げられ、他のワニのcranioquadrate passageが頭蓋骨背側から僅かに視認できる程度なのに対し、アロダポスクスのcranioquadrate passageは外側からも見て取ることが可能である。
アロダポスクスの種のうち少なくともA. hulkiにおいては、長期間陸上で生活するための適応を遂げていた可能性がある。A. hulkiの頭蓋骨には大型の洞が存在しており、これは現生のワニや化石種のワニには見られないものであり、頭蓋骨の軽量化の他にも水に由来する音を聞き取ることに寄与した可能性がある。加えて、A. hulkiは肩甲骨・上腕骨・尺骨上の筋肉の付着面がよく発達しており、前肢は陸上での歩行に適した半直立姿勢を維持することが可能であった。A. hulkiの骨格は層状の砂岩と泥岩の堆積物から発見されており、この地層は車軸藻植物に基づいて河川や湖沼のような恒久的な水場から遠く離れた大型の氾濫原に存在する一時的な池で形成された可能性が高い。A. hulkiは水の外で長い時間を過ごし、食餌を求めてこれらの池の間を移動した可能性がある。
発見史
アロダポスクスは複数の種が記載されているが、その位置づけには議論がある。
A. precedens
アロダポスクスのタイプ種A. precedensはルーマニアで化石が産出し、1928年にハンガリーの古生物学者フランツ・ノプシャが命名した。ノプシャが上部白亜系マーストリヒチアン階にあたるハツェグ盆地の堆積物中で発見した標本は骨の断片であった。2001年にはスペインとフランスから産出した部分的な頭蓋骨が本種に分類された。これらの頭蓋骨のいくつかはルーマニアの地層よりも古いカンパニアン階のものであり、このため本種は約500万年に亘って存続していたことが示唆される。
2013年の研究では、2001年に本種に分類されたフランスとスペインの化石が実際にはアロダポスクスの未記載種である可能性が提唱され、Allodaposuchus sp.として同定された。また2005年の研究ではこれらの化石は異なるワニ形類の属に属することが提唱され、またルーマニア産の化石が自身の属を設立するにはあまりに断片的であると指摘されたことにより、アロダポスクスを疑問名とする提案がなされている。しかし2013年の研究ではルーマニア産標本は他のヨーロッパの白亜紀のワニ形類から区別できるものであると主張され、属としてのアロダポスクスの有効性が再確認された。
A. (Agaresuchus) subjuniperus ?
2013年にはアロダポスクス属の第二の種であるA. subjuniperusがスペイン・ウエスカ県に分布する上部マーストリヒチアン階のトレンプ層群Conquès層から産出した頭蓋骨に基づいて命名された。本標本はビャクシン属の樹木の下で発見され、骨の間にはその根が食い込んで成長していたため、ラテン語で「ビャクシンの下で」を意味する種小名が命名された。しかし2016年に本種はA. precedensと十分な区別が可能と判断されたため、新属アガレスクスにそのタイプ種Agaresuchus fontisensisと共に再分類された。2021年にはBlanoによる系統解析がこの結果に異を唱えることになり、A. fontisensisとA. subjuniperusのいずれもがロフエコスクスのL. megadontosとL. mechinorumと共にアロダポスクス属に属することが示された。
A. palustris
ピレネー山脈南部のFumanya Sudと呼ばれる化石産地においてトレンプ層で発見された部分的な頭蓋骨と他の骨格断片に基づき、2014年にはA. palustrisが記載された。これらの骨格により、初めてアロダポスクスの体骨格の詳細な記載が可能となった。
A. hulki
アロダポスクス属の第四の種であるA. hulkiは2015年に記載された。産出層準は同じくトレンプ層であるが、産地はCasa Fabàであった。本種の種小名はマーベル・コミックの超人ハルクにちなんでおり、本種が強い筋肉を有したことを示す骨格の特徴を反映している。
A. iberoarmoricanus
2021年にBlancoが命名したA. palustrisは、南フランスのブーシュ=デュ=ローヌ県に分布する上部カンパニアン階の河川堆積物中に発見された化石に基づいて記載が行われた。本種の種小名は白亜紀のヨーロッパの群島の一つであったIbero-Armorican島にちなむ。
A. (Agaresuchus) fontisensis ?
2016年に新属新種Agaresuchus fontisensisが発見・記載された。本種の種小名は化石産地Lo Huecoが位置するスペイン・クエンカ県のFuentesにちなんでおり、fontisはFuentesのラテン語名である。これに伴ってA. subjuniperusも新属アガレスクス属に再分類されたが、Blancoの2021年の研究はこれに異論を投げかけており、アガレスクスをアロダポスクスのジュニアシノニムとして扱いこれら2種をアロダポスクス属に再分類することを提唱している。
A. (Lohuecosuchus) megadontos と A. (Lohuecosuchus) mechinorum ?
2015年に命名された属であるロフエコスクスにはL. megadontosとL. mechinorumの2種が含まれており、これらはスペインと南フランスから産出したものである。Blancoの2021年の研究ではこれら2種はアロダポスクス属に再分類することが提唱されており、またロフエコスクスはアロダポスクスのジュニアシノニムと考えられている。
分類
アロダポスクスはアロダポスクス科の分岐群に属すが、アロダポスクス科の厳密な位置付けについてはいまだ議論がある。Narváez et al. はアロダポスクス科をハイラエオチャンプサ科の姉妹群とした上でこれら2科を纏めてワニ目の姉妹群としており、Salisbury et al. (2006)やそれに準拠する小林快次『ワニと恐竜の共存』も同様の樹形を採用している。別の研究ではこれら2科は姉妹群ではなくワニ目に向かう進化的段階として扱われ、ハイラエオチャンプサ科はアロダポスクス科よりも基盤的とされている。2021年には体骨格の情報を組み込んだ系統解析により、アロダポスクス科はワニ目の内部に位置付けられている。
以下は2021年のBlancoの研究に基づく、アロダポスクス科内の類縁関係を示すクラドグラム。
2021年の研究においてアロダポスクスはアガレスクスやロフエコスクスと共に側系統群として扱われており、Blancoはこれら2種をアロダポスクスのジュニアシノニムにすべきであると主張している。
出典




